君の名を

 ひらひらと。

 ただ、ひらひらと。

 音もなく舞い落ちる紅葉たち。

 その存在を少しでも主張したいのか、カサカサと音を立てながら風に流されて飛んでいくのを、幸鷹はただ見つめていた。

(もうすぐ)

 彼女がここに来る。

 そうしたら、自分は。

 

 

【君の名を】

 

 

 

 一人で校舎を出てきた。

 何やら思案顔で歩いている彼女に声をかけたい気持ちを抑えに抑え、幸鷹は一人の少女だけを見つめている。

 女子校なのだろう、先ほどから出てくる生徒は女子しかいない。時折、幸鷹に興味津々な視線を寄越す生徒もいたが、そんなことは全く気にならなかった。

 今声をかけてはならない。

 そうしたら、今まで自分が待ち続けた時間も、彼女との未来も全て水泡と帰す。だからだめだ。

 やがて、一枚の紅葉がはらりと舞い落ちてきた。

 その紅葉は、真っ直ぐに花梨の下へと落ちて行ったように、幸鷹には思えた。

 瞬きすら惜しい。

 花梨が戻ってくる瞬間を見逃したくなかった。

 紅葉が小さな光を発した。え、と花梨の薄い唇が形作られた後。

 

(花梨さん・・・!)

 

 一瞬で消えた。

 すぐに戻ってくるとわかってはいる。

 今の時間でほんの一瞬だとしても、今花梨は八葉を集め、信頼を築き、怨霊を祓い、百鬼夜行と対峙しているのだ。

 無茶をして、傷ついて。

 時折ぼろぼろになって、背負われて四条の館へ帰り着いたこともあった。

 それでも仲間の心配をする花梨を、あの小さな姫が泣きそうな顔で女房達に指示を飛ばしていた。「今はご自分のことをご心配なされませ!」と珍しく声を荒げて。

 過去の自分はちゃんと助けているはずだ。記憶が塗り替えられていないから、大丈夫だと祈る気持ちで花梨が姿を消した木の下を見つめる。

 けれどそれは本当に一瞬で。

 瞬きをする間もなく、小さな光・・・そう、かつて自分の首筋に埋まっていたものが光った時のような・・・がポウッと現れて消えた。

 花梨の姿を伴って。

 

 今だ。

 今こそ彼女の名を呼ぶべき時だ。

 不安そうに辺りを見回す彼女に。

 ・・・君の名を。

 

「花梨さん!」

 

 そうして咲く笑顔の花を。

 自分はずっと忘れないだろうという確信めいた予感と共に。

 

 

 

 

 

 

ヒトリゴト。

 遥か2ED後のマイ設定もあるのですが、それはおいおいお話としてアップしていけたらなと思います。

 ネタはあるんですよ、ネタは・・・書く時間が・・・!!

 

 

 

2011.5.6UP