鼻歌が聞こえる。
何やら機嫌がいいらしい妻の鼻歌を、さてどこかで聞いたなと思い出そうとして、ふと気付く。
「花梨殿」
庭に咲いた花を眺めていた花梨が「はい」と振り返り、こちらへと歩いてきた。
少し伸びた髪がさらさらと揺れる様は、いつ見ても美しいと思う。
「今の歌は・・・」
歌を歌うなど行儀が悪いと怒るのはもっぱら女房達で、幸鷹は一向に咎める様子はない。全く思わないではないが、自分とて元は花梨と同じ世界の人間だ、気持ちもわからないでもないので黙っておく。
そんなことをつらつらと考えていることなど知る由もなくにこにこと微笑む花梨に、再度問うた。
「今の歌を、どこかで聞いたような気がするのですが」
「ああ、向こうの歌ですから」
かつて二人が生きていた世界。もう戻ることのない。
「懐かしいですね、母が時々口ずさんでいました」
無論、藤原の母ではない。周りに気を使って少し小さく話すその声音が寂しそうに花梨には思えた。
「ごめんなさい」
「何故謝るのです?」
「私が、あっちのことを思い出させるようなことしたから・・・」
ああ、と幸鷹が微笑んだ。
「いいえ、そのようなことはありません。ただ懐かしい思いがするだけです」
「ほんとに?」
はい、と優しく頷いてみせる。正直、寂しいと思わないでもないが、八年この世界にいる自分が今更元の世界に戻ることよりも、花梨が捨ててきたもののほうが大きいだろう。
自分の小さな想いなど、彼女が捨てたものに比べれば何でもない。
「続きはどうでしたっけ・・・」
何でもないフリをして、先ほどの鼻歌の続きをせがんでみる。すぐに笑顔に戻った妻が「続きはこうですよ」と歌い始めた。
あなたは知らないでしょう
私がどれほどあなたを愛しているかを
お願い神様
私の太陽を隠してしまわないで
「ああ、そうでしたね」
幸鷹が笑うと、花梨も同じように笑う。その続きを乞うまでもなく花梨が歌いだしたのを、幸鷹が優しくみつめている。
昔よく母が歌っていた記憶。
傍らには父がいて。
年の離れた兄姉が呆れた顔をしながらも母の鼻歌を素直に聞いていたっけ。
You are my sunshine.
My only sunshine.
You make me happy when skies are grey.
You'll never know dear,how much I love you.
Please don't take my sunshine away.
「うわあ、幸鷹さんすごい!」
はっと気がついた。
花梨がぱちぱちと手を叩く。
「幸鷹さんの歌声って綺麗ですね!」
「今、私は・・・?」
そうですよ!と賛嘆の眼差しで花梨が見つめるその視線が、どうにもいたたまれない。
恥ずかしいのだ。
けれどそうと素直に言える性格でもないから、笑って誤魔化してしまう。
「もう一度!ね、いいでしょう?」
「いえ、もう私は・・・」
というやり取りが何度か続き、結局花梨が折れた。
「また向こうでの歌を思い出しますから」
そうやって歌わせようという魂胆なのだろうが、宣言してしまうあたりが花梨らしい。
あなたは私の太陽なのです。
この世でたった一つしかない、太陽。
あなたという存在だけが私を幸せにしてくれる。
ねえ、愛しい人。
あなたはきっと
私がどれだけあなたを愛しているかを知らないでしょう。
お願いです、
どうか私の太陽を翳らせないでください・・・
「花梨殿」
また庭へ降り立ち、機嫌よく鼻歌を歌い続ける花梨に、小さく、小さく。
呟いた。
「You're my sunshine...my dear.」
あなたは私の太陽なのですよ、私だけの愛しい人。
ヒトリゴト。
歌は有名な歌なので割愛します(おいっ!
ただ幸鷹さんに「my dear」と言わせてみたかっただけです。
短すぎて・・・ど、どどどどうしよう(でもUPする
愛しい人、って翡翠さんですよねー(でもUPする・・・
うん、でもUPする(笑
2011.5.14UP