たとえば、きみのわらったかお 継花Ver.

 笑顔の優しい人だ、と思う。

 あまり笑うことをしない人だけれど、そんな泰継だからこそ、ふとした瞬間に笑う表情がとても好きだ。

 感情を表に出すことに慣れずにいた頃は、自分が笑っていることも自覚していなかった。時々辛そうにしていたり、涙を流したりすることも。

 花梨の世界で生きる彼は、子どものように「あれは何だ」「これは?」と目を輝かせる。そんな時の表情は年齢よりもかなり幼い。・・・本人には言わないが。

 今も今とて、パソコンに向かってキーボードと格闘中だ。ローマ字入力に慣れなくて表を見ながら人差し指でパチパチと打っている。その表情の嬉しそうなこと。

「花梨。間違えた」

「はい、どこですか?ああ、間違えた時はこれですよ」

 ついでにデリートキーとバックスペースキーの機能を教えると「なるほど」と真面目に頷く。ありがとう、と微笑むとまたパチパチ。

 ソファでそんな後姿を見ながら、紅茶を一口含んだ。

 

 

「今日はここまでにしよう」

 キリのいいところでパソコンを閉じた泰継が振り返る。今まで退屈な思いをさせてしまっただろうから、どこかに出かけようと言おうとして・・・。

「眠ってしまったのか」

 ソファで横になってすうすうと寝息を立てていたのだった。

 さてどうしたものかと一瞬思案顔になり、タオルケットを持って来ようかと寝室に向かいかけ・・・

「・・・・・・」

 結局戻ってきた。

 花梨の隣、フローリングに直に座る。穏やかな寝息を立てている花梨の頬に、そうっと触れる。

 閉じられた瞳には、意思の強さを持っている。疎い所もままあるが、人の気持ちを察することのできる優しい心。

 そして、柔らかい声。

 嬉しそうに自分を見上げる微笑み。

 八葉だという言葉を信じられずにいた自分。まさか、という思いが強すぎて。

 人ではない、ただのモノだと言い切ったにもかかわらず、自分を好きだと言ってくれた。この世界に帰ってきて、自分を求めてくれた。

 何よりも代え難い存在だと気付いたのは、いつだっただろうか。

 紫姫を除く全員から信頼も得られず、神子としての力は弱く。

 それでも「京のために」と奮闘する姿に、何かしら動かされるものがあった。

 札を得る為に京を走り回り、怨霊を封じ、花梨の人と成り、考え方や接し方を見て何かが変わっていくのを、自分でも感じ取っていた。

 闘いにおいても、回復札を取りに行くのでも、的確に差配する少女の姿に、八葉の誰もが信頼を寄せていくようになったのはそう時間がかからなかった。

 信頼だけではない、彼女を想うことで力を得、特に自分はただの「モノ」から「ヒト」になることができた。

 道具ではないと言い切った花梨。友達だ、仲間だと。

 人になったと知った時の喜びようは、泰継本人よりも大きかった。

 そして、この世界に一緒に行くと不安混じりに言った言葉に、笑顔と共に大きく頷いてくれた。

「・・・花梨」

 髪を梳きながら、小さく囁く。

「お 前のいない世界など、私はいらぬ。私は・・・孤独の、本当の意味を知らなかった。90年もの間、だから一人でいられたのだ。けれど、今はもうお前がいなけ れば生きていけぬ。花梨がいれば、私はそれだけでいい。どこにいようとも、お前の傍にいられさえすれば構わない。・・・迷い子のような私を、お前は・・・ 笑うのだろうな」

 龍神を呼び、光に飲まれていった花梨の手を、すんでのところで捕まえ切れなかった。

 もう戻ってこないかもしれない、龍神に飲み込まれてしまうかもしれない。

 あの時の消失感、焦燥感。絶望にも似た気持ちを抱いたことを、今でもありありと思い出す。

 花梨が飲み込まれていった空に向かって、初めて大声で花梨の名を叫んだことも。

「もう、お前を失いたくないのだ・・・」

 

 だから、頼みがある。

 次にその目を開いた時。

 微笑みかけてくれ。

 やすつぐさん、と、その優しい声で私を呼んでくれ。

 そして、お前の笑った顔を見せてほしい。

 迷い子の私に、その微笑みで私の道標となれ。

 仄かな光に照らされて、私はきっと・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒトリゴト。

  継花が「全ジャンル共通タイトル企画!(?)」最後のお話となります。他はするすると出てきたのに、この人たちはさっぱり出てきませんで・・・数日間ご飯 作りながらうんうん唸ってましたが結局思い浮かばず・・・結局いつもの「一発書きスタイル」で書くこととなってしまいました。

 本当は花梨から見た泰継さんの笑顔、のお話だったのですが、・・・花梨ちゃん、寝ちゃっ・・・(おい

 で、泰継さんの一人語りに相成ったわけでありますが、どこまでいっても真面目なこの方のことですから、やっぱり真面目路線になってしまったわけで・・・(必死の言い訳

 私自身は満足しつつ書いてました。

 どうでもいい余談ですが。泰継視点になってから「わんこ、わんこ・・・」と念じながら書いてました(笑)。「私を知らぬ者のように扱うお前など耐えられぬ・・・!」的な発言を見て以来、私の中で泰継は「わんこ」です(笑

 

2011.5.23UP