じー。
じー。
「・・・・・・」
じー・・・。
「・・・花梨」
「はい?」
「いい加減にしろ」
「えーだってえ」
「だってじゃないだろう。いつまで眺めているつもりだ」
「飽きるまで!」
「・・・・・・」
「だって、綺麗なんですよ、泰継さんの目!」
というやり取りが続くことかれこれ三度にはなるだろうか。
泰継さんの目って、左右色違いで綺麗ですよね、と花梨が突然言い出した。
「どうして同じ色じゃないんですか?」
「右目は琥珀色、左目は翡翠色。人型を与えられた時からだ。右目で陽の気を、左目で陰の気を見る」
「視点が合わなくなりませんか?」
「ならない」
陰陽の気を見る時と、何か物を見る時のモードが別バージョンなんだねと呟いて、泰継を軽く混乱に陥れたことには全く気付かない。
「色もとっても綺麗!ずっと眺めていたくなります」
「好きにすればいい」
じゃあそうします、と言ったのが数刻前。一度めは飽きぬのかと問うて、二度目はそろそろいいだろうと呟き、そして冒頭に戻る。
「きらきらしてて、宝石みたいです」
「この瞳一つとて、お前のものだ。好きにすればいい」
「え?」
「この瞳をお前にやる」
「へ?」
どちらがいいのだ?と真面目な顔で尋ねた泰継に「あ、あああああの!」と慌てて両手をぶんぶん振った。
「取り出すとか言いません・・・よね?」
「そのつもりだが」
「きゃあああ!ダメですよ!」
「何故だ?」
「泰継さんの、ここにある目だから綺麗なんです!っていうか取ったら痛いです!」
「痛くはないが」
元より「感覚」がないのだ。触れている感覚はあるが、熱い、寒い、冷たい、痛い・・・そういう「感覚」はない。
怨霊との戦いで傷を負うこともあるが、痛覚はない。けれども影響はある。どれほどの痛みだろうが感じることはないから、自分の気を探らねばどこが限界なのか忘れてしまう時がある。花梨には似たような話をしていたはずだが。
「痛くなくてもダメですっ!泰継さんの目だから、そこにないとダメ!」
泰継が黙り込んだ。
咄嗟なのか、花梨が泰継の両目に手をかざしているから、泰継には目の前が見えない。物理的には。
(・・・気が)
騒がしい。怒っているわけではなさそうだと安心する。神子に嫌われるのは心底「痛い」。
「・・・泰継さん?」
黙りこんだままの泰継に、さすがに怒鳴りすぎたかとおそるおそる手を退ける。ゆっくりと泰継だけが持つオッドアイが花梨を捉えた。
「神子」
「・・・はい・・・」
怒られるのかと思って首をすくめる。が、一向に声を発しない。
「痛い」
「え、」
手をかざした時にどこかに当たったのだろうか、自分が何をしたのかと狼狽する花梨に向かって、再度「痛い」と呟いた。
「胸が、・・・痛い」
服の上から心臓を鷲掴むかのようにぎゅうっと掴んだ。
俯いた跡を追うように、さらりと髪が数本零れ落ちる。
面差しに影を差すその表情もまた綺麗だと、花梨は思う。
「お前に嫌われたくない。そうなったら、私は胸が痛くて、どうにかなってしまいそうだ。私はお前のものだ、神子。この髪一筋に至るまで。しかしお前に嫌われたらと思うと、言いようのない痛みが私に襲い掛かってくるのだ。・・・お前の、神子の道具として、欠けてばかりの私だが役に立ちたい。一方で、お前に嫌われることを怖いと思う」
「泰継さん・・・」
「私は嫌われてはいないのか?お前は私を道具として役立ててくれるのか?」
「泰継さん」
花梨の通る声が泰継の耳に届いた。優しい、柔らかな。
「私は泰継さんのこと、嫌ってなんかいません。それに、前にも言ったでしょう?泰継さんも、他の皆も、仲間なんです。神子の道具じゃなく『高倉花梨の仲間』だと思ってるんですよ。お願いですから、もう『道具』だなんて悲しくなること言わないで下さい。泰継さんは出会った時から泰継さんなんです」
左右異色の瞳が、ゆっくりと上がる。
花梨の瞳を捉えた。
両の目には言葉と同じ、優しい色が浮かんでいる。僅かに微笑む花梨の表情を、とても綺麗だと思った。
「神子」
花梨は黙っている。
「私は、望んでもいいのだろうか。私の全てが本当にお前のものになることを。・・・神子の傍にいられることを」
「・・・京の気がちゃんと巡るようになったら。・・・私もきっと、同じことを龍神さまに祈ると思います」
お互いの瞳に確かに映る感情が同じものだと知って、泰継も花梨も安堵の息をついた。
「この戦いが終わったら」
泰継が微笑んだ。
「この瞳をお前にやろう」
花梨をどう映し出していたのかを知って欲しい。
宝石のように綺麗だと言ってくれた瞳を。
これからも、ずっとお前だけを映し出すから。
ヒトリゴト。
オッドアイ、という言葉は黒執事のアニメを見て知りました。作中には出てこないと思うけど、二次創作サイトさんで(そこかい!
で、友人とオッドアイについて語ったあたりで、いつか書いてみたいなと思っておりました。
あー、ちなみにですが。
左右の目で陰陽の気を見るとか、痛覚がないとかは、管理人の捏造でございます。
だって冬でも裸足で歩く人ですよ?きっと裸足なのは「地面から直接気を読めるから。沓なぞ通してたら読みづらい」んじゃなかろうかと思っております。
公式設定を知らないので、違ってたらスミマセン。
2011.5.28UP