「幸鷹さんの瞳の色はうぐいす色みたいな、綺麗な色ですね」
「そうですか?あなたにそうおっしゃって頂けると嬉しいですよ」
前を向いていた顔を、隣にいる花梨に向けてにっこりと微笑む。心なしか花梨の頬が赤くなった気がする。
「昔からあまり好きではなかったのですが、あなたに褒めて頂けると少し好きになれそうです」
「どうして嫌いだったんですか?」
幸鷹が少し言い淀む素振りを見せた。聞いちゃいけないことだったのかも、と花梨が気付いて「やっぱりいいです」と口を開きかけた。
「あの幸鷹さん、やっぱ・・・」
「私は、家族とはいつも違うのです」
ぽつりと漏らした一言に、花梨が立ち止まる。それを軽く背中を押してやりながら、また歩き始めた。
「元服も遅かったですし、兄との扱われ方も、今思えば少し違っていたように思います。何が、と言われるとどう違うのかお答えしづらいのですが・・・私に対しては、私の様子を伺いながら話していたことが多かったように思うのです」
一言を考え考え話す幸鷹は、いつもと違って珍しい。優しい笑みを浮かべながら、わかりやすく、流れるように話す普段とは違って、これが本当の幸鷹なのかなと花梨は思う。
「瞳の色、顔立ちにしても両親の誰とも似ていません。親戚の中で似ている人もいません。陰陽道に則って15まで春日の里で育てられましたが、その記憶とて・・・」
幸鷹が口を噤む。どうかしたんですか?と花梨が問うても黙り込んだままだ。
「幸鷹さん」
はっと幸鷹が花梨を見下ろした。背後で頼忠が黙って控えていることも、花梨が心配そうに覗き込んでいるのもすっかり見えていなかった。
「すみません、神子殿。頼忠も」
「いえ、私のような者にまでお気遣いは無用です」
「行きましょう、幸鷹さん、頼忠さん。幸鷹さん、変なこと言ってすみませんでした」
「神子殿が謝る必要はないのですよ」
「いいえ、私が瞳の色のことなんか言ったから・・・」
本当に気にしないで下さいと重ねて言い、どうにか花梨をなだめる。また神泉苑へと歩き出しながら、幸鷹がすっかり黙り込んでしまった。
「・・・幸鷹さん?」
恐る恐る呼んでみると、意外にも「はい、何でしょうか」と返ってきた。
「あ、あの・・・あの」
ただ呼んだだけだとは言えずに何か話題をとおろおろする花梨に、幸鷹が薄く微笑んだ。
「ご心配をおかけしてしまいましたね、神子殿。私のことでしたら大丈夫ですよ」
「でも・・・」
「あなたにこの瞳の色のことを褒めて頂いて、嬉しかったのです。その言葉をずっと反芻していました」
『幸鷹さんの瞳の色はうぐいす色みたいな、綺麗な色ですね』
ずっと気付いていながらも、気付かぬふりをしていた部分。家族の誰とも似ていない所だらけの自分。気付いてしまった「異端」な自分。けれどもそれは隣を歩いている神子によって優しく浮き上がるだけになっている。
いずれはこの「本当の違い」を目の当たりにしなくてはならないのだと、どこかで薄々感づいている。家族と自分が違う本当の理由を、遠くない将来、きっと知ることになるだろうという予感。その予感が本当になる時、この少女が傍らにいてくれたら、と思う。
「神子殿」
後ろに頼忠がいることを忘れて(仕事で時折傍に控えているから癖で忘れやすいのである)、幸鷹が花梨の手をとった。
「いつか、あなたにお願いしたいことがあります」
「お願い、ですか?」
「今はまだその段階ではありません。私が、・・・私の覚悟が決まったら、お願いに参ります。その時は・・・叶えて下さいますね?」
断定した問い。幸鷹の願いの重さが窺い知れてしまって、花梨が目を見開いた。
「あなたが、あなたの世界に戻られる前に。それまでには」
「あ、は、・・・はい。私でできることでしたら」
ありがとう、と幸鷹がふわりと笑った。
花梨が綺麗だと言ったうぐいす色の瞳。
自分一人だけがかけている眼鏡。
時折去来する「知らない記憶」。
でも今は。
「でも今は、あなたの瞳に映っていられる幸せを、純粋に喜びましょう」
そう言ってさらに綺麗に笑うから。
花梨の心臓は限界を超えそうなほど脈打ってしまうのである。
ヒトリゴト。
幸鷹さんて教養があるからそういう口説き文句とかいっぱい知ってそうですが(私に教養がないので言わせることができません、ハイ)、素で言う口説き文句ってきっと瞬殺力あると思うんですよね。
「幸鷹さんの瞳って綺麗ですよね」「私はあなたの瞳のほうが綺麗だと思います」って二人で見つめあうお話になる、はず・・・でした。私の指の暴走癖が出てきましたよ・・・げんなり。
2011.6.6UP