「お前は花のようだな」
唐突な言葉に「ほえ?」と間抜けな声で振り返って花梨に、泰継がもう一度言った。
「お前は花のようだ、と言ったのだ」
「・・・確かに名前に花がついてますけど・・・そう言われたのは初めてです」
友達には何度か言われたことがあるが、男性から言われたのは初めてなのであながち間違いでもない。
かりん、という名前にしたかったという両親は基本的に素直な性格で、「かりん=花梨」ということでつけたのだと小学校の頃に教えられた。
かりんとう、などとからかわれたこともあるが、自分の名前は割と気に入っている。
「名は体を顕すというが、本当にそうだな」
「・・・私、花梨っていう花を実際に見たことがないんです」
図書館の植物図鑑で見たことはある、実が食用とされることや、紫色の綺麗な花を咲かせることも。
「この辺りでは育たぬだろう。湿地で育つものだからな」
「っていうと日本では育たないんじゃあ・・・?」
「いや、育つ。しかし場所はかなり限られるだろう」
事実、京で見かけたことがある。
生薬として用いられる実を使っていたからだ。
咳止めに効く実は、この時代でものど飴などでよく見られる。
「便利なお役立ちアイテムっていうことですか?」
咳止め効果と、京の世界を救うというまったく違うものを「お役立ちアイテム」などとまとめるのはかなり乱暴だとは思うが、泰継が僅かに頷く。
「アイテム、という言葉は語弊があるが、役に立つという点では確かにそうだ」
事実、花梨のおかげで京は救われた。役に立つ、という、花梨をある意味では物のように扱う言葉に引っ掛かりを感じないわけではないが、事実なのだから仕方あるまい。
京の為に役に立ったし、泰継を人の形をしたモノから本当の人間へと変わる為に役に立った。
「こう言っていいのかわかりませんけど・・・。なんだか、見下されてるみたいな気がします」
「役に立つ、という言葉は、役者が一番目立つ役柄を演じることからきている。その役になって舞台に立つ、という意味からのようだ。だから見下される意味に取る必要はない」
「そうかなあ・・・」
納得できないのか、花梨が首を傾げる。ソファに座っている花梨の目の前に跪くように座ると、柔らかな白い手を取った。
「役者としてではなく、花梨として、お前は京を救った。そしてモノでしかなかった私を、人にしてくれた。存在に値しないただのモノから。そういう意味で、お前は役に立った」
泰継の瞳に吸い込まれそうになるのを瞬きで必死に抑えながら、花梨がかすかに微笑む。
「泰継さんの役に立てたのなら、それでいいです」
「お前は、欲がないな」
「そうですか?私は欲張りですよ」
「例えば?」
うーん、と花梨が首を傾げる。人差し指を顎に当てて考え込むのは、どうやら癖のようだ。京にいた時もいつもそうして考えていたなと笑みをこぼす。
「例えば、もっと泰継さんと一緒にいたいです」
「承知した」
えっ?と花梨が驚きに目を見開く。そうしている間にも、泰継が立ち上がり、ソファに膝を乗せる。
「お前が望むままに。・・・神子」
泰継の顔が近づいてきた。
「ちょ、っと待っ・・・そういう意味じゃな・・・!」
「良い香りがする」
「・・・・・・!」
「花梨・・・」
僅かに伏せられた瞼の向こう、琥珀色の瞳に宿る感情を、花梨は知ってしまった。
吸い寄せられるように花梨もまた瞼を伏せる。
「・・・お前は、花のようだ」
先ほども呟いた言葉を、花梨の唇から離しながら再度呟く。
「花は花でも、花梨のようなかわいげのある花ではなく」
小さな水音を立てて、泰継が何度も口付ける。その度に花梨の気が甘く変わるのを、泰継が見つめている。
続かない言葉が紡がれず、不思議そうに瞼を開けた花梨に、小さく笑った。ふうわりと、綺麗に。
「・・・酔芙蓉だな」
聞き慣れぬ花の名前に首を傾げたのをこれ幸いとばかりに深いキスを繰り返した。
ヒトリゴト。
久々の遥かです。タイトルを花にしようか酔芙蓉にしようか迷ったのですが、酔芙蓉も花、ということで。
泰継さんだとあまあまが書けるマジック。幸鷹さんでも書けたらいいのにな!(力不足
役に立つ、の語源は私の創作です。
2011.7.2UP