京の夏は暑い。
冬は足を出して寒そうだった花梨の水干姿が、大分涼しげに見える。
それでも当の本人は「暑い、暑い」と繰り返して、先ほどから水を張った盥に足を浸している。
「エアコン欲しい・・・」
「えあこん、とは何だ」
「エアコンは略してるんです。本当は・・・何てったっけ・・・」
うんうん唸っている花梨の隣で、汗ひとつかかない夫がちらりと妻を一瞥する。
「とにかく、その『えあこん』とは何だ」
「ああ、えっと、暑いときには涼しい風、寒い時にはあったかい風が出てくるんです」
「・・・便利だな」
でしょう?と得意げに胸を張り、けれど今はそんなものがあるはずもないことを思い出すと「ああああ暑い~」とまた始まる。
「暑い時には熱いものを食べるといいそうだが」
「発汗作用で涼しくなるんですよねー。でも今熱いの食べたら倒れそう・・・」
想像しただけで熱くてうだってしまいそうだ。
「花梨」
盥の水も温くなってきた頃。
泰継が読んでいた書物から目を上げた。
「はい、何でしょう?」
庇(ひさし)から肩越しに振り返った花梨に、寝ているのかと思っていたと答えると「こんなに暑いのに眠れません!」と頬を膨らませた。
「お水も温くなってきちゃったし、もうやめておこうかなあ」
「新しく換えたらどうだ」
「少しは涼しくなりましたから。橋姫~斎姫~誰かいない~?」
近くで控えていたらしい式神に盥の片づけを頼むと、花梨がよいしょっと腰を上げた。
その様子をじっと見ていた泰継の視線に気づくと「どうかしましたか?」と尋ねてみる。が、返事はない。ずっと自分の足を見つめている。
「・・・泰継さん?」
裸足で歩くことはよくあることだ。泰継とて、今でも夏は裸足で歩く。見慣れているはずなのに。・・・まさか。
「私の足に何かついてます?」
下を向こうとした瞬間「花梨」と呼ばれた。
「え、どうかし・・・泰継さん?」
突然立ち上がった泰継に驚いて目を見開く。すたすたと歩み寄ってきて、花梨の前に跪いた。
「え、ちょっ・・・」
花梨の膝裏に手を添え、左膝に口付けたのだ。
驚きで花梨が退こうとするのを、添えた手が許さない。よろけて尻餅をついた。そうすることでさらに足が近づく。スカートの奥が見えそうで見えない。手で隠そうとするのを空いた手で制し、もう一度口付けた。
「お前の足は、悪い」
「何が悪いんですか、って泰継さん!」
するりと大腿部に向かって手を滑らせる泰継を止めようとするのだが、一瞬遅かった。
「冷たいな」
「水浴びしてましたから、ってそうじゃなくて!」
「それに、綺麗だ」
かああっと真っ赤になった花梨をよそに、泰継がなおも呟く。
「お前はどこも綺麗だ。指先、顔、肌、足。何よりもお前の気が透けるように綺麗だ」
「それを言うなら泰継さんだって・・・」
泰継の一番好きな所は、琥珀色の瞳だ。透明で、純粋で。きらきらと輝く宝石のようで。
「お前のほうが綺麗だ」
綺麗だからこそ、自分を誘惑するこの白い肌が悪い。
ふとした瞬間に花梨の白い肌がふわりと脳裏を掠めて、時々たまらなくなる。北山の庵に住む二人を訪ねる者などほとんどいないから、それをいいことに泰継は花梨を求めることに我慢をしない。今もそうだった。
「・・・いいだろう?」
一段低くなった泰継の声は、瞬殺力がある。と花梨は思う。その声を聞くだけで、花梨の思考は考えることを放棄するほどに。
自分の行動の何が、泰継のスイッチを入れたのかはわからない。けれども、最近になって泰継は足フェチなんじゃないだろうかと思うほど、花梨の足をよく触ることに気がついた。そしてそれが「始まり」を告げる合図であることも。
「お前が悪い。いや、お前の足が悪い」
私に我慢をさせないのだから。
そんな独り言のような呟きが、花梨の頭の上を通り抜けて真夏の日差しに解けて消えた。
ヒトリゴト。
もうちょっと暴走するはずだったんですが・・・(え
思ったよりも自制してしまったね、泰継さん!この後に大暴走しそうですが(笑
泰継さんのスイッチがどこで入ったかというと、花梨がよっこらせ、と立ち上がる所です(わかりづらっ
その足の角度だったり、位置だったり、彼の中でツボだったんでしょうね。多分彼は足フェチなんじゃなかろうかという私の妄想です。
後日談、・・・書けたら書きます。が、地下室投下間違いなしかと思われます・・・
2011.7.11UP